Scene.30 本屋の労働運動を知っておいて!
高円寺文庫センター物語㉚
「店長、お休みをもらえてありがとうございました。
「店長、お休みをもらえてありがとうございました。
これはフジロックのお土産に買って来た、清志郎さんのリストバンドです」
「わお! 悪い。気を使わせちゃった上に、金まで使わせちゃってさ。
じゃ、お礼がてらニューバーグでランチと行くか?! 『ママさぁ~ん、クロと二人でいいかな?!』」
「大丈夫よ、早くいらっしゃい!
この一週間ほど、雨も降らない暑さでしょ・・・・冷やし中華を用意しているから」
「ママさん、ありがとうございます。マスター、いただきます!
店長。それでね、今年は3日分をすべて行ったのは海外メディアが『フェスのヘッドライナーが結集した』っていうほどの勢ぞろいだったからなんですよ。
去年は出なかった清志郎さんも、今年は出るのでラッキーでした!」
「ニール・ヤングやパティ・スミスまで来てたって凄いよな。
お目当てはなんだったの?」
「やっぱ、オアシスにエミネムですけど。日本のグループでEGO-WRAPPIN’は、昭和歌謡が入っていて店長が気に入るかなって気になりました!
電撃ネットワークも出ていたし、店長も行けばよかったのに」
「無理だよ。
炎天下で海もないんじゃ、干上がっちゃうし腰にヤバいって。クロのバイタリティーは素晴らしいよな」
「世界中のミュージシャンに刺激を受けて、彼らのメッセージから国境も人種も超えた世界観を得たいなって思ったんです」
「いいこと、言うなぁ・・・・。
貴重な体験は時間とともに成熟してさ、かけがえのない価値観と世界観を自分のものにすることができると思うよ」
根本敬さんは、優しかった!
なにしろ、これまでのイベントでは100人近いファンを集めてしまう根本さん。彼の新刊を出すというので、告知して予約まで受け始めていたのに刊行が延びる延びる。
著者や版元の事情に関係なく、正式に告知したら刊行遅延の矢面に立つのは本屋だもん。
お客さん=根本さんのファンの皆さんに、ひたすらお詫びしていたことを気遣ってくれて『それじゃ、お詫びにライブでもやりましょうか』
「根本敬おわびライブ」と、銘打ったイベントをやってくれるなんて粋と人情味に溢れかえっていると思わずにはいられなかった!
ただし、それを可能にしたのは版元の営業担当、岡部ちゃん。嫁を世話したくなるほどの、くそ真面目。出版営業は、こうした営業マンが全国津々浦々を歩き回って支えているんだなって実感できる逸材だった。
会場は、高円寺銀座商店会会議室。5坪ほどのスペースだったかな、下見に行ったら劇団がなんとか稽古していたほどの広さだった。
それが却ってよかったのか、お客さんは根本さんと至近で濃密なひと時を過ごせたと喜んでくれた。
根本さんで、忘れられないエピソードがある。ある時、10枚の色紙を書いて持ち込んで来られた。
根本さんにしては珍しく、多色で隅々まで書き込まれた作品に仕上がっていた。価格設定は1万円でも、一点物はファンなら買うでしょうとマージン交渉。
瞬く間に売り切ると、その売上げで韓国に取材旅行へと旅立って行った!
「店長!
今度のサイン会の漫画家さんの本、ちゃんと読んでおいてくださいよ」
「あの顔は、読まんばい。
興味ないとこれやもん、打ち上げで困るとよ」
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